ADHD関連遺伝子
ADHDの遺伝率は双子の研究で約76%と報告されています。ADHDの子どもの兄弟はADHDではない子どもの兄弟よりも3~4倍ADHDになりやすいといえます。
特定の一つの遺伝子ではなく、複数の遺伝子の変異や環境要因が、ADHDの原因として関わっていると考えられています。
ADHDの人の脳では、神経伝達物質であるドーパミンなどの働きが不足していることが分かっています。
そのため脳内に情報が伝達できず、ぼんやりした状態の脳であるため注意散漫であることが分かっています。
ADHDの要因となる1つで実行機能に影響するといわれるのはCOMT遺伝子です。
COMTはドーパミン、ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)などの脳内の神経伝達物質を分解する酵素の一つです。
この遺伝子の多型がADHDの実行機能の低下に影響していると考えられています。
ADHDでは脳の部位のうち眼窩前頭皮質でこの遺伝子との構造の関連が確認がされており、その厚みが増して表面積が小さいです。
その他のADHD関連遺伝子
ヨーロッパ、北アメリカ、中国の国際的な研究チームによるADHDと診断された20,183名とADHDと診断されていない35191名を対象とした大規模な調査研究報告では、ゲノムワイド関連解析によってADHDに関連する12のゲノム領域(遺伝子の領域) が発見されています。
これらのゲノム領域が中枢神経に影響を及ぼしている可能性が高いと考えられています。さらにうつ病や不眠症、神経性食欲不振症などの43種の疾患が、ADHDと同じ遺伝的シグナルに関連することが明らかになっています。
ADHDのリスクを高める遺伝子としてはたとえばFOXP2という、ヒトの言語発達との関連で良く研究されている遺伝子があります。
また、DUSP6は、ドーパミン作動性神経伝達というADHDの薬で標的とされるプロセスの制御に関連するものもあります。
SEMA6Dは、胎児が発達する機関に脳で発現される遺伝子で、神経を枝分かれさせるうえで、重要な役割を果たしていると考えられている遺伝子です。
ADHD合併自閉症
自閉症患者の41%~78%はADHDにもかかるとされ、その場合は症状が重くなり治療が困難になるといわれます。
この原因遺伝子としてKirrel3というシナプスに関連する遺伝子がこの疾患の重要な原因と考えられています。
これは和歌山県立医科大学医学部の森川吉博教授の研究によるもので、この遺伝子に異常があるとKirrel3タンパクの量が低下します。
この遺伝子の欠損したマウスは入れた容器の中を回り続けるなどの反復行動が目立ち、聴覚過敏が見られ、また治療に対する反応性が似ているなどADHDを合併した自閉症に類似しています。
早期発見
福井大学子どものこころの発達研究センターでの研究で、人工知能(AI)を使って、ADHDの子どもの脳の特徴を明らかにしました。
脳のMRIの画像からADHDに関係する脳構造と遺伝子多型、症状の程度との関連も確認でき、検査時間は5分で子どもへの負担が少なくADHD診断支援用のバイオマーカーとして活用が期待されています。
MRIで得られた画像をAIで解析するとADHDには脳の皮質の厚さや面積に特徴があることが分かりました。