AD/HD(注意欠陥/多動性障害)の診断と治療について

AD/HD(注意欠如/多動性障害)は、「不注意」と「多動・衝動性」を主な特徴とする発達障害の概念のひとつです。AD/HDを持つ小児は家庭・学校生活でさまざまな困難をきたすため、環境や行動への介入や薬物療法が試みられています。AD/HDの治療は人格形成の途上にある子どものこころの発達を支援する上でとても重要です。

AD/HDの有病率は報告によって差がありますが、学齢期の小児の3-7%程度と考えられています。AD/HDを持つ子どもの脳では、前頭葉や線条体と呼ばれる部位のドーパミンという物質の機能障害が想定され、遺伝的要因も関連していると考えられています。

AD/HDの診断については、アメリカ精神医学会(APA)の診断基準DSM-IV-TRに記述されており、下記などの条件が全て満たされたときに診断されます。

  1. 「不注意(活動に集中できない・気が散りやすい・物をなくしやすい・順序だてて活動に取り組めないなど)」と「多動-衝動性(じっとしていられない・静かに遊べない・待つことが苦手で他人のじゃまをしてしまうなど)」が同程度の年齢の発達水準に比べてより頻繁に強く認められること
  2. 症状のいくつかが7歳以前より認められること
  3. 2つ以上の状況において(家庭・学校など)障害となっていること
  4. 発達に応じた対人関係や学業的・職業的な機能が障害されていること
  5. 広汎性発達障害や統合失調症など他の発達障害・精神障害による不注意・多動-衝動性ではないこと

このようにAD/HDの診断は医師の診察で観察された行動上の特徴に基づいて行われ、それ単独で診断ができるような確立した医学的検査はありません。しかし一部の神経疾患・身体疾患・虐待・不安定な子育て環境などが子どもにAD/HDそっくりの症状を引き起こす場合があり、小児科・小児神経科・児童精神科医師による医学的評価は非常に重要です。

AD/HDを持つ子どもは意識的に症状を予防しようと試みても、どうしてもじっとしていられず、学校で必要な持ち物を忘れたり失くしたりしてしまいます。このような失敗行動は通常両親や教師たちに厳しく叱責されるため「どんなにがんばってもうまくいかない自分」という否定的な自己イメージを持ちやすく、家庭や学校においてつらい思いをしていることが多いようです。さらにAD/HDを持つ子どもは学業不振や対人関係で悩むだけでなく、気分が落ち込んだり、不安感をコントロールできなくなるなど、心の症状を合併することもあります。このため子どもがなんらかの困った行動を呈しており、その背後にAD/HDの特性があると診断される場合には医学的治療が必要です。

AD/HDを持つ子どもの治療は「1. 薬物療法」「2. 環境への介入」「3. 行動への介入」などを組み合わせて行うと効果が高いといわれています。

メチルフェニデートという薬剤がAD/HDの不注意・多動-衝動性を軽減する可能性がありますが、これは登録された専門医療機関でのみ処方が可能です。最近では新たにアトモキセチンという薬剤も処方可能になりました。

子どもを取り巻く環境を暮らしやすいものにするための介入としては、教室での机の位置や掲示物などを工夫して本人が少しでも集中しやすくなる方法を考える物質的な介入や、勉強や作業を10分-15分など集中できそうな最小単位の時間に区切って行わせる時間的介入などが有効です。

行動への介入では、子どもの行動のうち、好ましい行動に報酬を与え、減らしたい行動に対しては過剰な叱責をやめて報酬を与えないことで、好ましい行動を増やそうという試みを行います。問題行動を抑制できたことやその頻度が減ることなどにも注目してしっかりと褒めてあげることが重要です。報酬を得点化して一定数になったら何らかの特別なご褒美・行事への参加(映画に行く・博物館に行くなど)につなげるようにします。

多動症状をただ押さえ込むようなスタンスの治療は良い結果を生みません。親の立場から見える子どもの問題と、子ども本人が感じている困難さは同じでないことの方が多いのです。家族と専門家・教師の連携は言うまでもなく重要ですが、親子こそがしっかり連携して双方の「言い分」をやり取りできる雰囲気があると、AD/HDを持つ子どもはこの障害を乗り越えるのに必要な力を得ることができるでしょう。

厚生労働省「e-ヘルスネット」より

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