発達障害の原因とメカニズム、治療5 自閉症スペクトラム障害・ASD(タンパク質・遺伝子編2)

CHD8タンパク質の異常

染色体構造を変化させる作用をもつクロマチンモデリング因子という一群のタンパク質の一種にCHDファミリータンパク質があります。
その中のCHD8はクロマチンモデリング活性によって、様々な遺伝子の発現を調節することが知られています。
また自閉症患者では正常では2つあるCHD8の遺伝子の1つが欠損する半欠損が多く見られます。
九州大学の研究グループでは世界で初めてCHD8を人工的に欠損させたマウスを作成し、CHD8が発生期の器官形成に重要な役割を果たしていることを示しました。
2016年、研究グループはさらにCHD8を半欠損させたマウスを作成しその行動を分析したところ、正常マウスに比べ接触時間が増加し社会的行動が減少する異常を示しました。
マウスの社会的行動はお互いのにおいを嗅いだり追いかけたりするものです。
この結果は自閉症患者ではコミュニケーション障害のうち、特に受動型もしくは積極奇異型と呼ばれるタイプの行動に似ています。
不安様行動を調べるため迷路テストを行うと、CHD8半欠損マウスでは、不安や恐怖を感じる場所である壁のない通路への進入回数と滞在時間が減少していました。
この結果からCHD8半欠損マウスでは不安様行動が著しく増加していることが分かり、これらは自閉症患者でみられる症状と一致しました。
これらの結果から、CHD8半欠損マウスは、ヒトの自閉症の特徴を持っていると考えられ、CHD8が自閉症の原因遺伝子の1つと考えられます。
CHD8半欠損マウスの脳における全遺伝子の発現状態を総合的に調べると、神経発達に重要なタンパク質であるRESTの活性が顕著に上昇していました。
さらにこのRESTタンパク質の活性上昇は、ヒトの自閉症患者の脳でも同様に観察され、REST標的遺伝量の低下が人の自閉症発症に強く関与していることが示唆されています。
CHD8は神経の発達に重要なRESTタンパク質の活性を抑制し、神経発達を調節していると考えられています。
CHD8に変異が起こると、RESTタンパク質が異常に活性化して神経発達が阻害され、その結果自閉症が発症することが明らかになっています。
2018年、九州大学生体防御医学研究所の中山敬一主幹教授と名古屋市立大学薬学研究科の喜多泰之助教・白根道子教授、金澤大学医薬保健研究域医学系の西山正章教授らの研究グループは、自閉症の原因タンパク質であるCHD8が、脂肪分化や脂肪細胞における脂肪滴も蓄積に非常に重要な役割を持つことを発見しました。
CHD8は、自閉症患者において最も変異率の高い遺伝子です。
CHD8遺伝子に変異を持つ自閉症では、コミュニケーション異常や固執傾向といった自閉症特有の症状の他に、痩せ形の人が多いという特徴が報告されています。
研究グループは、脂肪幹細胞のCHD8遺伝子を欠損させたマウスを作成し、このマウスでは脂肪分化や脂肪滴の蓄積が抑制されていることを発見。
また、脂肪におけるvhd8の機能を調べるとCHD8は脂肪細胞分化に重要なタンパク質であるC/EBPβと協調して、脂肪分化や脂肪滴の蓄積に関わる脂肪関連遺伝子の発現を調節していることが分かりました。
さらにマウスのCHD8遺伝子を人工的に欠損させると、高脂肪餌を食べても太りにくくなることが分かりました。
これらの結果は、脂肪組織においてCHD8を抑制することにより、肥満を治療できる可能性を示すものです。

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