ADHD(注意欠陥・多動性障害)の治療薬
ADHDの治療薬は、脳内の神経伝達機能を改善して、注意力の散漫や衝動的で落ち着きがないなどの症状を改善します。
ADHDの症状はドーパミンやノルアドレナリンなどの脳内の神経伝達物質が不足したり神経伝達の調節異常が生じることによっておこるとされ、ADHD治療薬は脳内のドーパミンあるいはノルアドレナリンの働きを強めたり、これらの神経伝達物質のシグナル伝達を改善する作用を表し、その作用の仕組みは薬剤によって異なります。
神経伝達物質が不足しているとその働きが弱くなっています。その強めるために「再取り込み」を抑えることで神経伝達物質の働きを強め、ADHDの症状を改善するように働きます。「再取り込み」とは脳内で一度放出された神経伝達物質が再び細胞内へ回収されることをいいます。
コンサータについて
商品名コンサータ(メチルフェニデート)は2007年に6歳以上18歳未満の処方が認められ、2013年には18歳以上の成人にも認可されました。18mg、27mg、36mgの3種類があります。
コンサータは脳の中枢神経を刺激してドーパミンのトランスポーター(回収する部分)に結合し再取り込みを抑える治療薬です。同じ成分のものにリタリンがありますが、リタリンはすぐに効き目が現れ、短時間で効果がなくなってしまいます。
コンサータは徐放剤といって、カプセルから少しずつ溶けることで効果が現れ、効果が長時間持続するしくみになっています。
コンサータは1週間以内に効果が現れます。1日1回朝に投与後、約12時間で効果がなくなります。ドーパミン濃度が上昇するため、脳の活動性が増して覚醒する作用があります。利用者のブログ等では先延ばしや記憶が改善され、日中の眠気がなくなり、感覚過敏も軽減された事、事前の準備ができるようになったり、衝動性を抑えられたり、理解力が高まったなどが記載されているものもありました。
副作用としては、食欲減退、動悸、体重減少、不眠症、悪心、口渇、頭痛などが報告されています。薬価は18mgで337.80円、27mgが374.30円、36mgが402.60円です。
ストラテラについて
商品名ストラテラ(アトモキセチン)2009年に認可されました。前頭前野のドーパミン神経終末上のノルアドレナリントランスポーターに対する阻害作用をもち、シナプスでのノルアドレナリンとドーパミンを増加させることにより、脳内の働きを強めてADHDの症状を改善します。効果が現れるには投与後2週間で、安定した効果が得られるには6~8週間程度かかります。1日2回投与で、効果は24時間持続します。
効果としては多動性や衝動性が抑えられたとあったり、集中力が高まったという一方で、ほとんど効果を感じられなかったというブログ記事もありました。主な副作用として頭痛、食欲減退、傾眠、腹痛、悪心、口渇、嘔吐、便秘、浮動性眩暈、動悸、体重減少があります。
味覚や嗅覚、聴覚などに感覚過敏が現れたというブログ記事も数件ありました。
薬価は10mgで324.70円、25mgが409.50円、40mgが461.20円です。
ジェネリック医薬品にアクセプタもありますが、日本では認証されていないため個人輸入でなければ手に入りません。2018年8月、東和薬品でアトモキセチンの製造販売承認を取得したので、今後はジェネリック医薬品が手に入りやすくなるでしょう。
第3のADHD治療薬、インチュニブについて
商品名インチュニブ(グアンファシン)は日本で3つ目のADHDの治療薬で2017年3月に認可され、6歳以上18歳未満への処方が認められました。
インチュニブは、α2Aアドレナリン受容体という部分に作用する薬です。1日1回投与です。
インチュニブは、大脳の前頭前野にある錐体細胞の後シナプス(情報伝達物質を受け取る側のシナプス)に存在するノルアドレナリンの受容体のα2Aアドレナリン受容体に結合します。
結合すると後シナプスのイオンチャネルが閉じられて、情報伝達物質の漏えいを防ぐことができます。その結果、シナプス間の情報伝達物質の濃度を高める作用があります。
効果として不注意や多動、衝動性を抑えられることで、席を立たなくなった、適度に頑張れるようになった、負けを認められるようになった、謝ることができるようになったなどが見られました。主な副作用として、食欲減退や頭痛、不眠などが現れる場合があります。薬価は1mgが407.20円、3mgが537.50円です。
なお、販売元の塩野義製薬と共同販促(プロモーション提携)のシャイア―・ジャパンは、 2018年8月に成人適応を追加して承認申請しました。近いうちに成人への使用が認められるかもしれません。
ADHDの新薬について
2017年4月、塩野義製薬とシャイアー・ジャパンの共同で、ADHD治療薬の承認申請をしました。アメリカでの商品名ビバンセ(リスデキサンフェタミンメシル酸塩)といい、ドーパミンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害する作用によってADHDの症状を改善すると考えられているものです。しかし2018年2月、この治療薬やその成分を含む物質を新たに厚生労働省は覚せい剤原料として指定しました。それにより輸入の度に厚生労働大臣の許可が必要となり、一般の個人による輸入は禁止されました。
また、成人ADHDの治療薬として2016年11月に治験の最終段階に進んだダソトラリンが、大日本住友製薬から2018年までにADHDの治療薬としての販売を目指しています。ダソトラリンはノルアドレナリンとドーパミンの再取り込みを阻害する作用により、ADHDの症状を改善する治療薬です。
自立支援医療制度
ADHDの医薬品は高価であるため、自立支援医療の対象になっています。自立支援医療の受給者証を申請して交付されれば、受給者証の提示によって一般には3割負担のところを1割の負担に軽減することが出来ます。
申請は役所の精神障害福祉担当の窓口(障害福祉課など)に申請書や医師意見書、同意書等を提出します。受給者証が交付されれば指定医療機関や指定薬局で提示することで、負担額を軽減することが出来ます。
参考
日経メディカル処方薬事典
Wikipedia
薬価サーチ
塩野義製薬
シャイアー・ジャパン