1 ラパマイシン(シロリムス)、エベロリムスによる
治療の可能性
2012年、東京都医学総合研究所、東京大学、東京都福祉保健局は順天堂大学との共同研究により、自閉症の種症状である「社会性相互交流障害」が抗腫瘍薬、免疫抑制薬として複数の国で認可されているmTOR(mammalian Target of Rapamycin:哺乳類ラパマイシン標的タンパク質) の働きを抑えるラパマイシンと呼ばれる薬剤により改善することを、結節硬化症のモデルマウスを用いた動物実験により明らかにしたと発表しました。
2014年、アメリカ・コロンビア大学の研究チームは、自閉症を再現する遺伝子組み換えマウスを用いた実験で、脳のシナプスを刈り込むメカニズムを回復させることに成功しました。研究チームは実験で、タンパク質mTOR阻害薬のラパマイシンを使用しました。
ラパマイシンは自閉症に関連付けられることが多い「結節性硬化症」の治療薬で、免疫抑制剤のはたらきをします。
TORは自閉症患者で異常に活性化され、脳が本来持っているシナプスの刈り込み(間引き)能力を阻害することが分かっています。
ラパマイシンを投与したマウスでは、他のマウスとの接触を避けるなどの典型的な自閉症的行動の現象が見られたそうです。
これは自閉症が出生時ではなく、後の成長期に発症するため、自閉症の診断後に有効な治療を行える可能性を示すものになります。
2018年、ラパマイシンの誘導体であるエベロリムスについて、自閉症スペクトラム障害の新規治療薬開発で藤田医科大学とウシオ電機株式会社の連結子会社である株式会社プロトセラは共同研究契約を締結したことが発表されました。
これは、結節性硬化症における自閉症スペクトラム障害に対して、結節性硬化症治療薬のエベロリムスが著効を持つことが見出されたからです。
しかし、エベロリムスは強い免疫抑制作用があるために感染症が生じやすく、また数年にわたる継続的な服用が必要など、負担が大きいという課題があります。
そこで共同研究ではエベロリムスの有効な薬理作用をもたらす部分を探索し、治療により安全で負担が少なく効果の高い診断法と治療法を目指すものになっています。
2 クリスパー・キャスナインによる治療の可能性
また、ゲノム編集ツールとして注目されているクリスパー・キャスナイン(CRISPR/CAS9)システムを自閉症の治療に使う技術が進んでいます。
CRISPR-CAS9(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats CRISPR ASsociated proteins9)とは、DNA二本鎖を切断してゲノム配列の任意の場所に削除、置換、挿入することができる新しい遺伝子改変技術です。
ZFNやTALENに続く第三世代のゲノム編集ツールとして2013年に報告されたCRISPR-CAS技術はカスタム化が容易であることから、ヒトやマウスなど様々な生物種において、そのゲノム編集や修正に急速に利用されています。
1996年にDNAを特定の位置で切断できるタンパク質ZFN(Zinc Finger Nuclease:ジンクフィンガーヌクレアーゼ)が報告されました。
ヌクレアーゼとはDNAなどの核酸を分解する酵素の総称です。
ヌクレアーゼは、本来は細胞内にあるものですが、人工的に作りだしたのがZFNです。
第二世代は2010年、タンパク質を利用してDNAの結合を狙ったことで、DNA認識能が向上したTALEN(Transcription Activator Like Effector Nuclease:転写活性化様エフェクターヌクレアーゼ)が報告されたものです。
クリスパー・キャスナイン(CRISPR/CAS9)システムは、細菌や古細菌においてウイルスやプラスミドといった遺伝的要素の侵入物を標的として、排除するように進化した適応免疫の一つです。
関連遺伝子を改変して症状を改善する技術が確立すれば多数の患者を救えると、研究者は期待しています。
クリスパー・キャスナインは特定の遺伝子をピンポイントで結合するガイドRNAを利用することで、正確に書き換える技術です。
その登場によりバイオ医療の研究現場は一変しました。
2018年、テキサス大学健康センターの研究チームは、自閉症のマウスを使った実験で、自閉症の特徴と関連のある遺伝子を編集し、その影響を観察しました。遺伝子の改変後は、いつまでも穴を掘り続けたり、ケージの中で変則的なジャンプを繰り返すといった行動が抑制されるか完全になくなって落ち着いた状態になりました。
人間の患者を対象にした臨床試験には時間がかかるでしょうが、今後に期待できる結果です。
発達障害の原因とメカニズム 自閉症スペクトラム障害(ASD) 参考サイト
Wikipedia
Akira Magazine
Meiji みんなの健康チョコライフ
nature asia.com
コスモ・バイオ株式会社
パスツールからのメッセージLES MESSAGES de I’Instintut Pasteur
藤田医科大学プレリリース
藤田医科大学総合医科学研究所システム医科学研究部門(2016年)
太陽笑顔fufufu
Mimot満たされたい、もっと。
グリアアセンブリによる脳機能発現の制御と病態
福井大学・子どものこころ発達研究センター
名古屋市立大学
公益財団法人母子健康会(2008年)
マイナビニュース(2012年)
脳科学事典 自閉症スペクトラム症(2013年)
AFP BB NEWS(2014年)
東京医科歯科大学プレス通知(2015年)
理化学研究所 報道発表資料(2017年)
いつも空が見えるから(2017年)
杏林大学(2017年)
感性で波乗り(2018年)
Newsweek日本版(2018年)
GIGAZINE(2015年・2016年)
発達障害-自閉症.net(2018年)
公益社団法人日本冷凍空調学会JSRAE(Japan Society of Refrigerating and Air conditioning Engineers) 最近気になる用語260