発達障害とオキシトシン

発達障害との関連

CD38は血液白血球に発現する膜タンパク質です。金沢大学大学院医系研究科教授・東田陽博の発見によると、このCD38の欠損マウスはオキシトシンの分泌に障害がみられ、オスの場合、繰り返してであるメスを記憶できずに、初対面のメスに対する行動を取り続け、社会認識記憶の喪失が認められました。またメスの場合は、離された子どもを巣に連れ戻す行動や、子を腹の下に抱える行動に中々取りかかれず、しかも完遂できないという養育行動異常を示しました。この実験結果は2007年Nature446号に報告されました。

オキシトシンの投与によって、自閉症症状に著しい変化がみられたという報告もなされています。

金沢大学子どものこころの発達研究センター、子どもの心の診療科の東田陽博・棟居敏夫らの研究成果によると2008年、自閉症の23歳男性がCD38の140番目のアミノ酸であるアルギニンがトリプトファンに置換されている変異を持ち、血中オキシトシン濃度が低いことが分かり、その後、両親が個人輸入したオキシトシンスプレーを朝と夕に噴霧することを始めたところ、自閉症男性の症状に変化がみられたというものです。しかし、その後1年の間その作業を怠ることで、以前の症状に戻ったようです。

最新の研究成果

2017年、臨床精神薬理第20巻6号に掲載された記事によると、自閉症スペクトラム(ASD)当事者にオキシトシン点鼻スプレーを1回投与したことによって、活動が弱まっていた表情や声色を活用して相手の有効性を判断する脳の部位の活動が増加したとの報告もあります。

2018年、浜松医科大学精神医学講座、山末英典教授(前東京大学准教授)は、金沢大学(責任医師:棟居俊夫前特任教授)、名古屋大学(責任医師:岡田俊准教授)、福井大学(責任医師:小坂浩隆教授)との共同研究チームにより、医師主導臨床試験を行って、自閉スペクトラム症における対人コミュニケーションの障害に対する初の治療薬として期待されるオキシトシン経鼻スプレーの有効性と安全性を世界で最初に検証しました。

自閉症者にオキシトシンを経鼻的に投与し治療する事は薬事法的に現在承認されていませんが、今後オキシトシンを発達障害の治療に用いることを可能にする開発計画が進む事が期待されています。

参考

産業医科大学雑誌38巻第4号(2016)下垂体後葉ホルモン・オキシトシンと疼痛ならびに炎症調節作用との関連

自治医科大学NewLetterオキシトシンの社会記憶促進作用の解明(2016)

臨床精神薬理第20巻6号

国立研究開発法人日本医療研究開発機構プレリリース(平成30年6月29日)

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