馴化と脱馴化

馴化(habituation)

馴化とは、ある特定の刺激を繰り返し長時間にわたって接することで、その刺激に対する反応が薄れていく現象です。一般的に言えば「慣れ」や「順応」が近い言葉です。

馴化は、人に限らず動物の多くが示す現象であることがわかっています。

馴化の特徴には以下のものがあります。

・弱い刺激の方が強い刺激より馴化が起こりやすい。

・単調な刺激の方が複雑な刺激より馴化が起こりやすい。

・馴化した刺激以外の刺激に注意が向きにくくなる。

・似たような刺激にも馴化が起こる。

・馴化した刺激をしばらく与えられないでいると、反応が戻る。

馴化は単調で弱い刺激が繰り返して維持される場合にもっとも起こりやすく、一方で、強い刺激や複雑な刺激だと繰り返して維持されても起こりにくいものです。

ただし、注意が向きにくくなるのは、馴化刺激と同時に提示された刺激であり、ある刺激と馴化した後に新しい刺激が与えられると、それには反応を示します。

また馴化するのは特定の刺激ですが、馴化した刺激と似た刺激が与えられると、その刺激に対する反応も薄いもしくは示さないことがあります。

加えて、馴化した刺激であっても、しばらく刺激を受けない状態が続くと反応が自然に回復してきます。

例 電車で眠くなる

電車に長時間乗っていると眠くなることがあります。これには馴化が関わっています。

電車に乗っていて眠くなる理由

1 電車に乗りたての頃は、ガタンゴトンという音や、激しい揺れが気になり、それらの刺激に意識が集中する。

2 電車の音や揺れに意識が集中することで、他の刺激に注意が向きにくくなる。

3 電車の音や揺れを繰り返し感じるうちに、慣れて期的にならなくなる。(馴化)

4 電車の音や揺れも、その他の刺激も気にならなくなる。(眠気を妨げる刺激に注意が向か
なくなる)

5 眠気を感じる。

人は、周囲の様々な刺激に注意を向けることで眠気を感じず起きていますが、そうした
刺激に注意が向かなくなることで眠気を感じるようになるわけです。

例 赤ちゃんの寝かしつけ

赤ちゃんの寝かしつけの手順

1 赤ちゃんの背中をトントンする。

2 赤ちゃんの意識が背中のトントンに集中し、他の刺激に向きにくくなる。

3 背中のトントンに馴化し、気にならなくなる。

4 背中のトントンにも、その他の刺激にも注意が向かなくなる。

5 寝る

脱馴化(dishabituation)

脱馴化とは、ある刺激に馴化した状態で、別の新しい刺激を与えられると、刺激に対する反応が復活する現象です。新しい刺激が与えられる事によって馴化した刺激に対する反応が戻る、つまり馴化した状態から脱することから「脱」馴化と呼ばれています。

脱馴化の例

電車に乗っていて眠くなった場合

1 電車の音や揺れに馴化した状態で眠気を感じている。

2 電車が急ブレーキをかけ、社内が大きく揺れる。

3 急ブレーキの影響でハッと目がさえる。

4 電車が再び動き出すと、乗りはじめと同じくらい音や揺れを感じる。

赤ちゃんの寝かしつけ

1 赤ちゃんが背中のトントンでうとうとしている。

2 トントンのテンポを変えたり、トントンを止めたりする。

3 赤ちゃんが目を覚まし、泣き始める。

馴化-脱馴化法 馴化-脱馴化パラダイム
(habituation-dishabituation paradigm)

馴化と脱馴化を活かしたファンツ(Fantz,R.L)の研究をもとにして発展した、言葉を覚えていない乳幼児の知覚や認知の研究するための方法です。馴化と脱馴化の現象を利用して、乳幼児が与えられた刺激を区別できているか確認します。

大まかな流れは以下の通りです。

1 乳幼児に刺激Aを与えて注意を向けさせる。

2 乳幼児に刺激Aを繰り返し与え、馴化させる。

3 乳幼児が刺激Aに馴化したところで、刺激Bを与えて反応を見る。

乳幼児は、周囲に対する強い好奇心を持っているため、新しく与えられた刺激に対しては長い時間注意を向けます。

しかし、同じ刺激が繰り返し与えられているうちに、その刺激に対して注意を向ける時間が徐々に減少していきます。(馴化)

その状態で新しい刺激を与え、脱馴化が起こるかどうかを確認し、脱馴化が起これば、前の刺激と後の刺激を弁別(区別)できている、脱馴化が起こらなければ、弁別できていないと判断します。

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