移調と頂点移動、代表例教授法について

移調(transposition)

ドイツ・ベルリン大学のゲシュタルト心理学者で「チンパンジーの洞察学習」で知られるヴォルフガング・ケーラー(Wolfgang Kohler 1887~1967)は、般化勾配が横軸に水平移動する「移調」という現象を発見しています。

ケーラーは、ニワトリに暗い灰色と明るい灰色を同時に提示し、明るい灰色に反応するように同時弁別訓練を行いました。その後に、反応するようになった明るい灰色ともっと明るい灰色を提示し、どちらが選択されるかテストを行いました。すると訓練されていないもっと明るい灰色により反応することが示されました。つまり灰色を頂点とする般化勾配が、もっと明るい灰色とする般化勾配へと移調したのです。

これは、ニワトリが絶対的な尺度で刺激を見ているのではなく、同時に提示される2つの刺激の関係性を見ていることを示しています。

移調は「個々の刺激の絶対的な性質ではなく、刺激間の関係を知覚し、刺激が別のものになっても、その関係を引き継いで知覚すること」と定義されます。

頂点移動(peak shift)

移調と類似している現象として「頂点移動」と呼ばれる現象があります。移調との違いは、移調は同時弁別訓練で見出されるのに対して、頂点移動は継次弁別訓練によって見出されることです。

ハンソン(Hanson.H.M)の実験では、統制群のハトを550nmの波長の光が照射されるキーへの筒木反応を、VIスケジュールによって強化し、実験群のハトには550nmの光キーを正刺激、555nmの光キーを負刺激として継次弁別訓練を行いました。その結果、統制群では550nmを頂点とする般化勾配を得られたのに対し、実験群では530~540nm付近が頂点となり550nmではごく少ない反応しか見られませんでした。

頂点移動は上記のような色の違いだけではなく、他の刺激次元でも観察されており、またヒトを含む多くの動物でも見出されています。

代表例教授法(General Case Intruction)

子どもに生活スキルを教えるときには、学習した生活スキルが日常生活の様々な部分にも「般化」するように計画しておくことが重要です。指導で教えた行動が指導場面以外でも応用できるようにということです。例えば、近所のパン屋さんで買い物をするスキルを教えたとします。その結果、誰の援助がなくてもそのパン屋さんでは買い物ができるようになりました。でも、これだけでは他のパン屋さんでも買い物ができるかどうか、すなわち般化が起こるかどうかは分かりません。

一番確実なのは、地域の他のすべてのお店を利用できるようにするために、一つ一つの店で直接練習することですが、現実的ではありません。そこで考案されたのが「代表例教授法」です。

例えば、地域のパン屋さんでの買い物行動を課題分析して、複数のお店に共通したステップと(レジに並ぶなど)、それぞれのお店に独特のステップ(パンを選んで自分のトレイに入れる)とを整理して、これだけを教えれば、地域の全てのパン屋さんで買い物ができるはずという最小限の課題を設定しています。このように代表的教授法を遣えば、より少ない練習で効率的に般化を促進することが出来ます。

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