シャンクタンパク質の遺伝子
シナプス後部の足場となるタンパク質であるシャンク1,2,3の変異も自閉症との関連として注目されています。
2006年、フランス・パスツール研究所の研究グループはシャンク3遺伝子の変異が自閉症に関与する遺伝子と報告しました。
研究グループは第22番染色体の22q13という領域に興味を持っていました。
この領域の変異は精神発達異常、自閉症、言語障害の原因とされているからです。そして第22番染色体の22Q13の領域にある遺伝子シャンク3が自閉症に関与していることを突き止めました。
彼らは5人の自閉症児がシャンク3遺伝子に単純な変異から重大な欠失に至る様々な程度の変異を示していることを明らかにしました。
このうちの2人において唯一確認された変異は、22q13領域にあるシャンク3遺伝子の変異であり、この遺伝子が病気の責任遺伝子であると考えられました。
その後の研究で、シャンク1を欠損したマウスは行動力低下や空間記憶の低下などが見られ、シャンク2を欠損したマウスでは多動性の増加、不安や行動異常の増加などが見られると研究報告があります。
CAPS2(CADPS2)タンパク質の遺伝子
2007年、日本の理化学研究所は、CAPS2(CADPS2)遺伝子の異常が自閉症の発症メカニズムに関連しているとの研究成果を発表しています。
CAPS2遺伝子は2000年に発見された遺伝子で、CAPS2タンパク質は、ニューロンの細胞体とシナプスでの脳由来神経栄養因子(Brain Derived Neurotrophic Factor:BDBF)の分泌に関わっています。
CAPS2を持たないマウスを作って調べると自閉症に似た行動を示すことが分かり、そのタンパク質を調べることで、一部のアミノ酸が欠損したCAPS2タンパク質はBDNFを神経細胞内で運搬できないため、BDNFがシナプスでは分泌されず、神経回路の形成異常につながることが分かっています。
BDNFは、1982年にイギリス・カーディフ大学神経生物学のイヴス・アラン・バーデ(Yves Alain Barde)教授がブタの脳から初めて精製しました。
119個のアミノ酸からなるポリペプチドで、第11染色体に遺伝子座があり、神経細胞の発生や成長、維持や再生を促し、シナプスの亢進に関わっています。
脳内で記憶を司る「海馬」に多く含まれ、そこで神経細胞の動きを活発化させることが期待されています。このことから「脳の栄養」と呼ばれることもあります。
ミクログリアの遺伝子
脳内の免疫細胞として知られるミクログリアは、発達期に過剰に作られた神経細胞間のシナプスを適切に刈り込むという神経発達上の役目を担います。この刈り込みの異常は自閉症スペクトラム障害(ASD)や統合失調症の原因の一つと考えられていました。このシナプスの刈り込みについて重要な役割を果たすのが、ミクログリア特異的分子CX3CR1です。
2017年、名古屋大学大学院医学系研究科精神医学・親と子どもの心療学と大阪大学大学院医学系研究科/生命機能研究科、同蛋白質研究所の研究グループはミクログリアにおいて特異的に発言するCX3CR1にコードする遺伝子上のアミノ酸置換変異が自閉症スペクトラム障害(ASD)などの発症リスクに関与しうることを世界で初めて示しました。