1 概要
対象 小学校4年生 10歳○ヶ月 生年月日:○○年○月 利き手:右
主訴
・動き回ることが多く集団行動ができない。
・自分に自信がなく、人に関わることが苦手。
・学校生活に対する不安が強く、登校しぶりがある。
2 検査前の行動観察
B君の検査者は検査当日が初対面でした、待合室で検査者から挨拶をしましたが、B君は検査者をちらっと見ただけでことばでの挨拶はありませんでした。検査者がこれからやってもらうことはクイズみたいなこと だよと説明すると、何をするのか見通しが持てたようで少し表情を緩め検査者の方を見ました。検査者が「B君は一人でも大丈夫かな?」と聞くと首を縦に振り検査に応じてくれました。
3 検査中の行動観察
M1[語の学習]:問題には集中して取り組むことができ全問実施。問30以降、絵の選択に迷い始めると、「こんな絵あった?」と聞いてくることが何度かありました。検査者は「ありましたよ」と応答しました。問24で初めての0点、問26が1点、問29が0点、以後問30~42の間で0点2つ、1点4つ。問43~54の間で0点2つ、1点が6つありました。
M3[物語の完成]:問題全体を通して必要ないと判断したカードを外しながら作業を行いました。カードを並べる際にストーリーを言語化していました。問題は全問実施、0点が問12,14,16,17の4つ。他は全て満点でした。
M4[数唱]:集中して取り組むことができました。数唱が5桁になると混乱していました。6桁で中止となりました。
M5[絵の統合]:問15までは安定して正答できましたが、問16以降アニメのキャラクターの名前を強く意識した応答のため誤答が目立ちました。問21が最終通貨問題でした。
M6[語の学習遅延]:初めは集中して取り組むことができ問7までは全て2点。問8で混乱があり0点、以後応答に自信が持てない様子で問9が1点。以後0点が2問続き中止となりました。
M7[近道さがし]:課題性を適切に理解し、まず図番全体を見て、指で一度なぞってから作業を始めていました。問12までは全問正答。以後、問15,17(最終通過問題)が正答。不注意による誤答はありませんでした。
M8[模様の構成]:問20まで全問正答。以後、4問連続誤答で中止条件となりましたが、全ての問題を制限時間いっぱい(120秒以上)かけて作業を行ってくれました。問22のみ模様を完成させることができました。
M10[パターン推理]:問題全体を通して、ややばらつきがありました。最初の誤答が問14、最終通過問題は問33でした。問14~30の間の正答率は7/20でした。
M11[手の動作]:検査にやや飽きが感じられました。問7が最初の誤答、最終通過問題は問18でした。やや不注意のため間違えたと思われる問題がありました。問7~18の間の正答率は6/20でした。
[習得検査]
検査2回目ということもあり、検査・検査者慣れが確認でき、核問題に対して、「これは簡単!」「これは面倒くさいな」と検査者に話してきたり、検査者に学校の話を振ってきたりすることがありました。信頼関係を壊さない程度に話を聞き、検査を実施しました。
A1[表現語彙]:問題が難しくなっても忍耐強く取り組んでくれました。問23まですべて正答。最終通過問題が問36でした。中止条件にいたるまでほぼ正答で最初の誤答も、正答扱いにして良いような反応でした。評価点は14点でした。
A2[数的推論]:問題内にばらつきがあり、最初の誤答が問21続けて問22が強盗、問23以後29問目まで正答。問30の誤答から問45の最終通過問題までの通過率は7/16でした。分からない問題の中には「むり!」と即答するものもありました。
A4[計算]:問題が難しくなると、「面倒くさい!」、「筆算むりだ!」と拒否する問題があり、取り組みが非協力的でした。このため、先のA2[数的推論]の評価点と本問題A4[計算]の評価点では大きな開きがありました。A2年齢相当以上、A4年齢相応です。行動観察の様子から、学習に対しては強い苦手意識があるものと思われます。
A6[言葉の書き]:機転が(9-0~9-11)となりました。「漢字は書きたくない」と、嫌々問題を解いている様子が確認できました。問29以降全く分からなくなると「もうダメ!」と問題を解くことを諦めてしまいました。
A7[文の理解]:先の問題で自信を失ってしまっていたので、少し休憩を取りB君が再び自信を取り戻せるよう配慮し検査を続行しました。検査者とカードゲームの話をしているときはとても嬉しそうでした。問題文をしっかり読み反応してくれました。問題文の中に読めない漢字があっても前後の文脈から想像し反応してくれました。
A8[文の構成]:問題を提示するとすぐ「こういうの嫌い!」といい投げ出しそうになりましたが、検査者が励ましを行うことで、何とか頑張ってくれました。A6の評価点と本問題A8の評価点から書字障害の診断を裏付ける結果となりました。
A9[理解語彙]:基点が(8-0~12-11)となりました。集中し正誤を確かめながら取り組んでくれました。問10~17までは全問正答。問18が最初の誤答で最終通過問題は27でした。問18~27の正答率は5/10でした。
検査結果
※標準得点は100を平均とし、プロフィールのブルーの部分が同年齢での平均を示しています。
カウフマンモデル プロフィール
知的能力とこれまで獲得してきた知識を分けて考える能力の見方
CHCモデル プロフィール
知的能力と知識を総合して考える能力の見方
※ 上記の数値は絶対的な数値ではありません。±5程度の誤差が設けられています。また検査対象児の性格特徴、検査時のコンディションなども数値の上下に影響します。
※ PS、PWの表記について、B君にとっての得意がPS、不得意がPWで表しています。
所見 B君の発達の理解について
K-ABCⅡ認知総合尺度の結果からB君は知的発達水準は平均とより下であることが考えられます。
能力区分別に見てみると発達の凸凹があり、子の発達の凸凹をB君に関わる大人の方々が理解してあげると、B君が生活しやすく、学びやすくなることが期待できます。
B君は、普段の生活で一般に期待される適切な振る舞いや対応はほぼ年齢相応に理解しているものと思われます。また、そのことを言葉として理解できているものと思われます。しかし、短期記憶の弱さがあり、周囲の大人や友達から誤解を受けてしまっていることが想像できます。
同年齢の子どもは仕方ないとして、周囲の大人から見るとB君は「いろいろなことがわかっているのに、どうしてしっかり聞くことが出来ないんだ。」「しっかりきいていないからできないんだよ。」といった誤解が生じてしまうくらい短期記憶は凹んでいます。この誤解の連続がB君の社会生活能力及び情動面の発達に影響してきたと考えられます。
また、能力間の凸凹から生じる誤解に対して、B君は自分の意図を相手に上手に伝えることが苦手であることも考えられます。CHC総合尺度では、[読み書き尺度]の数値が年齢平均を大きく下回っていました。さらに[読み書き尺度]を構成する問題(下位検査)を詳細にみると、文章校正能力はB君の最も苦手と考えられる能力でした。一方で、語彙量や文章理解力はほぼ年齢相応に沿って発達していると考えられるので、指導を受けたことはほぼ理解でき、人と関わることが苦手であると考えられます。
参考
東京未来大学こどもみらい園