発達障害の原因とメカニズム、治療4 自閉症スペクトラム障害・ASD(タンパク質・遺伝子編1)

腸内環境とセロトニン仮説

ASDを抱える子どもは健常者より胃腸疾患を抱える割合が高いことが多数報告されています。

2017年、日本の理科学研究所と日本医科大学の共同研究は、モデルマウスを使った実験で、発達期のセロトニンが自閉症発症メカニズムに関与する可能性を報告しました。
過去の研究でも自閉症患者において、神経伝達物質のセロトニンが減少していることが示されてしましたが、どのように自閉症につながっているのかは分かっていませんでした。

ASDでは15番染色体の遺伝情報に変異があることが知られていて、セロトニンの遺伝情報は15番染色体にあります。
セロトニンは精神を安定させる作用があり、幸せホルモンともいわれます。
マウスの染色体にASDのヒト同様の変異を生じさせ、脳の働きを調べた結果、脳幹にある「縫線核」という部分の働きが低下し、そこでつくられるセロトニンの量が減っていました。
このマウスの乳児期にセロトニンを投与するとASDに似た症状は改善されました。
しかし脳が作りだすセロトニンはわずかで、約90%は腸管が作っています。
腸管でつくられたセロトニンは腸のぜん動運動を促進する働きをしており、脳の作用に与えることはないと考えられています。
研究者の間ではセロトニンが自閉症に関連があるという「セロトニン仮説」が知られています。
これはおおよそ1/3の自閉症者において、血中セロトニン濃度が上昇する高セロトニン血症が報告されており、健常者の1.5倍~2倍の高さを示していることや、胎児の脳の発生過程において、セロトニンは神経細胞の成熟、形態、活性およびシナプスの可塑性に影響を与えていること。
また、セロトニンは自閉症の症状と関連がある社会性、攻撃性及び不安などに影響を及ぼすことから提唱されている仮説です。

2014年、福井大学子どものこころ発達研究センターこころの形成発達研究部門によると、大人の自閉症患者の検査で、セロトニンの調節をするセロトニントランスポーター(SERT)と呼ばれるたんぱく質を解析したところ、脳内の広範囲にわたってその機能が低下している事が分かっており、その原因が神経細胞内でSERTを細胞膜まで輸送する分子の異常である可能性を報告しました。

さらに、SERTに結合しSERTの機能を調節する分子としてセロトニン膜輸送遺伝子NSF(N-4ethylmaleimide sensitive funsion protein)が発見されました。
SERTを安定的に発現させた細胞においてNSFの発現を減少させると、SERTの細胞膜での発現が減少し、SERTの取り込み機能が減少します。
自閉症者ではNSFの遺伝子の発現が減少傾向があり、自閉症者ではNSFが減少し、その結果SERTの膜移行が滞って、機能低下が起きていると考えられています。