「心の理論」について

心の理論(Theory Of Mind:TOM)

人はコミュニケーションをとる際に、自分がこういえば相手はこう感じるだろうと直感的に理解することができます。相手の立場にたった視点や意見を考えることができる能力のことを「心の理論」といいます。

心の理論を調べる課題

心の理論を調べるために、様々な課題が考えられています。それらをまとめて「誤信念課題(false belief task)」と呼ばれています。これを開発したのはハインツ・ウィマー(H.Wimmer)とジョセフ・パーナー(J.Perner)です。彼らの開発した誤信念課題はマクシ少年と呼ばれる人物のストーリーとして考え出されました。

その内容な主人公であるマクシは、緑の棚xにチョコレートを置き、遊ぶに出かけます。
母親は何も知らずにケーキの材料としてチョコレートを使うため、緑の戸棚xからチョコレートを取り出し、青の戸棚yにしまいました。
母親は卵を買うため部屋を出ていき、その後マクシは戻ってきます。この人形劇を子どもに見せた後に、対象児に質問をします。
質問1は「マクシはチョコレートをどこにあると思っているでしょうか。」で、質問2は「チョコレートを見つけるため、どこを探すと思いますか。」です。
対象児が知っているチョコレートのある場所は青の戸棚yとは別に、マクシの誤った信念であるチョコレートは緑の戸棚xにあるというのを答えなければなりません。

実験結果として、4歳から5歳の子どもは正答するのが半数で、6歳以上の子どもはほとんど正答しました。

誤信念課題として最も有名なものとしては、「サリーとアン課題」があります。これは、サイモン・バロン・コーエン(Simon Baron Cohen)というイギリスの自閉症研究者によって作成されたものです。

サリーとアン課題

サリーが見ていない間にアンがボールをカゴから箱の中に移しました。戻ってきたサリーは、ボールを探すためにカゴを覗くでしょうか、箱を覗くでしょうか。

通常3歳児は正解することができませんが、4~5歳になると、自分は箱の中にボールがあることを知っているが、サリーはアンがボールを移すところを見ていないから、カゴの中を探すはずだという事を理解して正解できるようになります。自閉症児はこの問題の正答率が低いです。

その後、ジョセフ・パーナーらは「サリーとアン課題」を簡略化した「スマーティー課題」を考案しました。
「スマーティー」は、イギリスでたいていの子どもが知っているチョコレート菓子のことです。

スマーティ課題

前もって、子どもの見えないところで、お菓子のはこの中に鉛筆を入れておきます。
お菓子の箱を子どもに見せて、何が入っているか質問します。
お菓子の箱を開けてみると、中には鉛筆が入っています。
お菓子の箱を閉じて、「この箱を(この場にいない)〇〇さんに見せたら、何が入っているというと思う?」と質問します。

正解は「お菓子」ですが、心の理論の発達が遅れていると「鉛筆」と答えます。

この実験を言語精神年齢が同程度の自閉症児と言語障害児にさせた結果、正答率は自閉症児17%(12人中2人)で言語障害児は92%(12人中11人)でした。
これにより、パーナーらは言語理解の一般的な障害が「心の理論」の獲得の失敗を引き起こしているのではなく、自閉症児が特異的に「心の理論」の獲得に困難を持っていると考えました。

さらにサイモン・バロン・コーエンの実験により、自閉症児は通常の子どもより「心の理論」の獲得が困難で、通常より遅れて「心の理論」の能力が発達すると考えられています。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする