WISC=Ⅳ(ウィスク・フォー)について
WISC-Ⅳは、原版の発刊が2003年で、日本版は2010年12月1日に刊行されました。日本版WISC-Ⅲは1998年に発刊されたのでWISC-Ⅳへの改訂は12年の歳月を要しましたが、これは短い期間での改訂になります。
WISC-Ⅳの基本構成
WISC-Ⅳの指標得点の意味
指標得点名(略記号) | 意味 |
言語理解
(VCI:Verbal Comprehension Index) |
①言語概念形成(結晶性能力の一部)
②言語による推理力・思考力(流動性能力) ③言語による習得知識(結晶性能力の一部) |
知覚推理
(PRI:Perceptual Reasoning Index) |
①非言語による推理力・思考力(流動性能力)
②空間認知 ③視覚―運動協応 |
ワーキングメモリー
(WMI:Working Memory Index) |
①聴覚的ワーキングメモリー(作業中の一時的記憶保持)
②注意、集中 |
処理速度
(PSI:Processing Speed Index) |
①視覚刺激を速く正確に処理する力(処理速度、プランニング)
②注意、動機づけ ③視覚的短期記憶 ④筆記技能、視覚―運動協応 |
苦手な指標 | お子さんの状態 | 学習面などでの困難 | 支援・工夫 |
言語理解 | 〇絵や図などでの理解
〇複雑な言語理解をともなわない聴覚的な記憶 △言語での理解・表現 |
・算数の文章問題等の理解
・日時や場所、あげる・もらうなどの理解と表現 ・音読は出来ても内容の理解をしていなかったり、意味を間違えている。 |
・指示は簡潔に丁寧に
・絵や図で示す。実際の生活と結び付けたりお手本を示す ・約束は紙に書いて確認 ・文章問題のキーワードに注目させたり、内容を絵や図で示す |
ワーキング
メモリ |
〇絵や図などでの情報の理解や操作
△イメージや意味づけしにくい耳からの情報の記憶 △言葉での理解や表現 |
・聞き間違い、聞いたことを忘れる
・少し雑音があると注意がそれやすい ・簡単な計算の暗算・九九 ・相手の話を最後まで集中して聞いていられない |
・注意の集中を促してから話しかけ、説明・指示は短くする
・絵や図、文字やモデルを補助的に示して伝える ・紙を使って計算させる ・九九表の使用の許可 ・メモを取る習慣をつける |
知覚推理 | 〇耳から入る情報の記憶や理解
○言語での理解・表現 △目で見た情報を推理したり、まとめること △物事を空間的、総合的に処理すること。また、動作を表現すること。 |
・日記、作文などの文章をまとめること
・整理整頓が苦手 ・表や図にまとめる事 ・場面や状況、社会的なルールを理解できず、行動がそぐわない |
・順を追って言葉で説明する
・具体的にものなどを使いながら言葉での補足もする ・しまう場所に目印をする ・ルールは言葉を用いて一つずつ確認を行う ・場面や状況、気持ちなどを分かりやすい言葉で伝える |
処理速度 | 〇耳からの情報の記憶や言語での理解や表現
○目で見た情報を推理したり、まとめること △不器用さがある △目で見た情報の記憶 |
・文字の書き写しが詳しく、書くのが遅い
・必要な道具が見つからず、準備が間に合わない ・活動時間内に終わることが出来ない ・計算の記号の理解が難しく計算に時間がかかる |
・文章を分かち書きにして示す
・文字を大きくしたり、見本を近くにおく ・順を追って丁寧に説明 ・課題に費やす時間を十分にとったり、使いやすい筆記用具を用意する ・課題の優先順位を考える |
WISC-Ⅳの新しい解釈として3つの視点があります。
1.CHC(Cattell-Hom-Carroll)理論の広範能力に依拠した解釈
Cattellとその弟子Homの理論と、Carrollによる階層因子分析のメタ分析をまとめた理論です。
階層因子分析とは、因子分析モデルの発展形の一つで、因子分析は観測された変数から、その背後に潜む構造を知る方法です。階層因子分析モデルは知能研究との関連で重要な道具といわれています。
図:階層因子分析モデル
メタ分析は複数の研究の結果を統合して、より高い見地から分析すること、またはそのための手法や統計解析のことです。
2.事前仮説に基づく臨床クラスターの対比較
臨床クラスターとは、理論的に類似の能力を特定すると仮定される下位検査のまとまりをいいます。
3.GAI,CPIによる解釈
CHC
臨床クラスター |
説明 | WISC-Ⅳ下位検査 | |
【基本検査】 | 【補助検査】 | ||
長期記憶
(Gc-LTM) |
長期記憶からの情報の検索(想起) | 単語 | 知識 |
短期記憶
(Gsm-WM) |
WMIと同じ
記名(符号化) |
数唱
語音整列 |
|
語彙知識
(Gc-VL) |
語を推理したり、語の定義をする能力、需要言語・表現言語の両者を含む | 単語 | 語の推理 |
一般知識
(Gc-KO) |
情報や基礎的な知識 | 理解 | 知識 |
流動性推理
(Gf) |
基本的な概念の基礎的活動と応用を含む、視覚的情報を推理し、知的な算数計算を実行するのに必要な能力 | 行列推理
絵の概念 |
算数 |
言語性流動性推理
(Gf-verbal) |
語について推理させ、対になっている語の抽象的な概念関係を見出す | 類似 | 語の推理 |
非言語性流動推理
(Gf-nonverbal) |
視覚情報に基づく推理 | 行列推理
絵の概念 |
|
視覚処理
(Gv) |
視覚情報を分析し、いろいろな形に統合する | 積木模様 | 絵の完成 |
長期記憶と短期記憶
長期記憶 > 短期記憶
Gc-LTM > Gsm-WM |
長期記憶 > 短期記憶
Gc-LTM > Gsm-WM |
|
仮説
(解釈) |
想起は良好だが、記銘が苦手 | 記銘は良好だが、想起が苦手 |
指導例 | 口頭指示や、説明は簡潔にし、文字を添える | テストの解答形式を選択しや正誤判断など再認で済むものにする。想起の役に立つキーワードを教える。 |
※ 検査からわかる支援と工夫の一例です。お子さんの状態も人それぞれですので、実際に検査をうけ、分からない事や具体的な具体的な支援方法を検査者にアドバイスしてもらいましょう。
参考
静岡県掛川市ホームページ
兵庫県立特別支援教育センター「WISC-Ⅳ知能検査の見方について」
岩手県立総合教育センター・教育支援相談担当サイト
研究委員会企画チュートリアルセミナー2 日本版WISC-Ⅳの理解と活用
日本版WISC-Ⅳテクニカルレポート#1©2011日本文化科学社