発達性協調運動障害2 その治療と支援について

スキル獲得の推進

評価によって苦手な領域が特定されたら、そのスキル獲得についてどのような方針をとるのかを検討します。苦手な協調運動の練習を行う場合、できる限りスモール・ステップで、本人と親が焦らずに取り組めるように配慮します。少しの努力で達成できる短期目標をこまめに設定し、目標達成時に達成感が得られることと次のステップへ進む意欲が保持できるよう配慮します。DCDの多くのケースでは、苦手な協調運動の困難さが成人期までを通じて一貫して持続します。したがって、集中的な訓練を過度に行うことは、かえって本人の苦手意識を増大させ、生活全般に関する意欲と自信の低下の要因となってしまう可能性が高まります。苦手な領域に対しては、むしろ本人の得意なスキルやそれ程苦手としていないスキルを活用して苦手さを補完するやり方を身につけるという支援方略の方が実用的です。

幼児期のうちは、本人が苦手さをあまり感じることなく自発的に生活動作を繰り返すことができるように、他児とスピードを競わせる場面を極力少なくし、用いる道具を工夫します。たとえば食事の場面では、スプーンのグリップが太くて滑りにくいものを用いたり、平皿ではなく縁のついた皿を用いてすくいやすくするなどの工夫が可能です。強化学習の場面では、筆圧が弱く細かい字が書けない子供の場合には太くて濃い鉛筆と罫線の間隔の広いノートを用いるなどの工夫が出来ます。重要な事は、成人期までの支援のプロセスにおいて、いずれは自分でこのような工夫を行えるようにしていくことです。

本人への心理・社会的支援

協調運動が苦手な子どもの多くは、生活の中で他児より動作が遅い、不器用などの理由で他児と対等な関係で遊べないなどの支障が生じることがあります。そのような状況を放置していると、遊びを通してL同世代の子ども同士の体験の共有の輪に入れず、徐々に孤立感、疎外感を増幅させてしまいます。したがって、ことは運動だけに済まされません。さまざまな社会場面で自信が持てず、、全般的な社会参加への意欲の低下を招いてしまいます。このような状況に陥ることを回避するためには、本人のできることを認め、誉めるという接し方を日ごろから心掛けておく必要があります。

親への心理教育

子どもの人格形成に最も大きな影響を及ぼす親が、自分の子どものことをどのように感じているのかは、子どもの自尊感情の形成を大きく左右します。DCDのように発達に部分的に苦手なところがある子どもに対して、親は、集中的な訓練によって苦手なところを克服させて、バランスの良く育てたいと考えるものです。しかし、そのような考えが過剰となり、焦りを生むことによって親の視野が狭くなり、子どもの苦手克服を生活の中で最優先してしまうと、子どもは自身が持てません。親が過剰な期待をかけたり負担の強すぎる課題を設定したりいすることを防ぐためには、親が子どもの特徴についてだけでなく、将来の見通しや目標の立て方についても知っておく必要があります。同時に、これらの知識を身につけるプロセスで必ず生じる親の心理的葛藤に対するカウンセリングを行うことがきわめて重要です。。

多領域チーム・アプローチ

DCDの子どもたちに対しては、感覚統合の知識と技術を持つ作業療法士(OT)が関わることが多くあります。さまざまな日常生活の中で、得意あるいは平均的な運動能力の部分を最大限に活用し、苦手な運動は道具の工夫などで補っていきます。その中で、少しずつ苦手な運動の上達を図っていきます。精神科を訪れるDCDのケースの大半は他の発達障害も有しているため、OT以外にも臨床心理士、言語聴覚士、ソーシャルワーカーなどの職種が関わることになります。精神科医は、診断と評価の結果をもとに総合的な治療/支援プランを立て、関わる職種と役割分担についての大まかな方針を立てる必要があります。

発達障害の人たちの支援に関わる専門家のための研修テキストより