罰とその問題
罰(punishment)の定義は「ある行動に後続して与えられ、その行動の生起頻度を抑制する」ものです。
例 子どもがベッドの上で飛び跳ねて暴れるとき、母親は子どもを「やめなさい」と叱り、さらに「ベッドを壊したら、今日は床の上で寝なさい」と言う。
→ 叱られれば、子どもはもう飛び跳ねなくなるでしょうが、母親はしばらく後に、再び子供を叱ることになります。またベッドの上で飛び跳ねるからです。
罰の問題はこの例の通りで、閥の持つ行動抑制効果は、一時的であることがすでに明らかになっています。一方、強化の原理は学習の源ですから永続的です。
ただし、すぐに危険が迫る行動は、叱ることによって停止させられますから、その点では罰も有効です。例えば、子どもがライターをいたずらしているような場合です。その場で叱ってやめさせて、ライターを取り上げてから危険性を説いて聞かせる。その後は親がライターの管理を徹底すれば、それで問題ありません。
罰には永続的な効果がないことは、与える罰を厳しくすると人は逃避や回避と呼ばれる行動に向かいます。全く行動しなくなる(無気力化する)、抜け道を探す、隠れるなど、いずれも良い結果にはなりません。
最悪なケースは「ばれなければ大丈夫」という考えを持ってしまうことです。
罰なき社会
スキナーは「罰なき社会(The Non Punitive Society)」(1990年)で、「もし、正の結果だけによって、人々が知識や技能を獲得し、生産的に働き、お互いが良好な関係を結び、生活をエンジョイすることができるならば、国際的な事柄に従事する人々も罰的でないやり方をもっと有効に用いることができるようになるでしょう。戦争に訴えようとするのは、不幸で怯えている人たちです。幸福な国家間の国際協調がより良い結果を生むはずです。」
二国間で望ましくない行動に対して経済制裁などの手続きが採用されることがあります。うまく機能したとすれば負の弱化の手続きですが、その行動を抑制できないばかりか副次的な結果としてより攻撃的行動を誘発してしまうことすらあります。
体罰の問題
日本行動分析学会は、2012年に大阪府内の高等学校で発生した体罰事件を受けて、「体罰」に反対する声明を発表しました。
科学的知見を根拠としてその要点を次の3つにまとめる事ができます。
① 苦痛刺激を用いた「正の弱化」としての「体罰」の効果と問題点
② 副次的な望ましくない作用
③ 望ましくない行動を減少させるより望ましい方法
暴力的な行為を用いても、望ましくない行動が抑制されるわけではありません。自分が体罰を受けて、その結果として頑張るようになり成功した人にとってみると、体罰は単に望ましくない行動を抑制するだけでなく、より望ましい結果を導く素晴らしい方法であると考えてしまうかもしれません。そして、体罰を使用することで一時的であれば目の前にある望ましくない行動が消失すれば、負の教科を受け、時には周囲の人たちから社会的な賞賛と言った正の強化すら受ける場合があるでしょう。けれども、体罰を受けることで、例えば部活動等の対部、不登校や、さらに深刻な場合は自殺といった事態を招く場合があることは近年の報道からも明らかです。
行動分析学の研究から、望ましくない行動を抑制する手続きが弱化や消去だけではないことが明らかになっています。
嫌子の使用に伴うネガティブな効果は「反応コスト法」や「タイムアウト法」等を使うことで回避することができます。さらにポジティブな行動支援から、より望ましい行動を形成しながら望ましくない行動を抑制する具体的な方法も存在します。