発達性協調運動障害1 その診断や評価などについて

発達性協調運動障害とは

発達性協調運動障害(Developmental Coordination Disorder;DCD;DSM-Ⅳ-TR)とは、運動機能が他の発達領域に比べて特異的に障害されており、それが脳性麻痺など明らかな神経学的異常や全般的な発達の遅れによる二次的なものとはいえないものを指します。

日常生活の中でわれわれは、意識的/無意識的を問わず常に身体のどこかを動かし、あるいは動きを止めています。体幹、頭部、四肢、手指それぞれの筋群が協調して、目的のある運動を生起させます。知能などと同様、こうした協調運動も子どもの成長とともにより精緻なものへと発達していきます。ところがDCDの子どもたちは、個々の筋の動きに麻痺などの神経学的異常がないにもかかわらず、協調運動がうまくいきません。協調運動には、歩く、走る、姿勢を変えるなどの粗大運動と、スプーンですくって食べる、ボタンをはめる、鉛筆で字を書くなどの微細運動があります。DCDでh、これらが全体的にうまく発達しない場合であれば、一部の身障害され、他は問題ない場合もあります。いずれにしても、協調運動うまく行えないために日常生活や学業に著しく支障をきたす場合にDCDと診断されます。

診断

粗大あるいは微細な運動の協調が、その人の知能から期待される水準より遅れている価値説である場合に診断されます。DCDと診断するためには、一般身体疾患、特に脳性まひや筋ジストロフィーなどの神経疾患や筋疾患を除外する必要があります。逆にDCDと併存しやすいものとして、学習障害、ADHD、表出性言語障害、構音障害、吃音、チックなどがあります。

臨床的意義

協調運動がうまくできないという主訴だけで精神科の外来を訪れる子どもは、ほとんどいません。通常は、運動以外の主訴で精神科外来を受診したケースで、運動の評価を要すると判断されたときに、はじめてDCDが検討されることになります。たとえば、書字が苦手という主訴で受診した子どもでは、精神遅滞や学習障害(所持表出障害)の他に、DCDのために字がうまく書けないという可能性も検討する必要があります。また、学習障害やADHDの子どもでは、DCDを併存する例が少なくありません。さらに、診断基準には含められていないものの、アスペルガー症候群の人たちの中には協調運動が苦手である人が多いことも知られています。

DCDの子どもたちは、日常生活のあらゆる活動場面において他児に遅れをとり、あるいは上手に活動を遂行することができず、達成感を得にくく自信を失いやすいです。したがって、DCDの子どもたちへの対応では極めて精神医学的な配慮が求められます。学習障害やアスペルガー症候群など他の発達障害とDCDが併存する場合はさらに一層の配慮が必要です。

評価

発達に凸凹のある発達障がい全般にいえる事ですが、個々のケースについて得意なスキル、平均的なスキル、苦手なスキルを特定することが、治療/支援の第一歩です。とはいえ、DCDに照準を合わせた標準化された評価尺度は今のところ開発されていません。そこで、言語、構音、知覚機能、認知機能、神経学的評価などとの対比による協調運動の評価と、さまざまな協調運動間の乖離の有無に関する評価を行います。単に診察室や検査室で標準化された検査を行うだけではなく、その人の現在の生活、および将来の生活をイメージしながら、協調運動の異常が学業や日常生活にどの程度の支障を及ぼすのか総合的に評価を進めていく必要があります。

DCDを含む発達障害の評価で比較的よく用いられる心理検査としては、田中ビネーやウェクスラー式(WISC-ⅣWAIS-Ⅲ)などの知能検査、ITPA、K-ABC、DN-CAS、ベンダーゲシュタルト検査、人物画検査などがあります。これらの検査では、副次的ながら手指操作の評価も可能です。運動機能そのものは、実際に粗大運動(歩行、自転車乗り、ボール投げなど)や微細運動(ボタンは目、紐結び、書字など)を子どもに行わせて評価します。DCDの子どもでは、神経学的微徴候をしばしば認められます。これは、片足立ちがうまくできない、顔を固定した状態で動くものの追視ができないなど、神経系の機能分化の発達の未熟さを示唆するものと考えられます。

発達障害の人たちの支援に関わる専門家のための研修テキストより