発達障害の原因とメカニズム、治療1 自閉症スペクトラム障害・ASD(原因・メカニズム編1)

ASDの疫学調査

自閉症スペクトラム障害(以下ASD)の発症率はアメリカ保健機関の調査では68人に1人とされます。
世界保健機関(WHO)のデータによると自閉症を抱える子どもの数は毎年13%ずつ増加しているそうです。
日本の疫学調査では2002年に小中学校で行われた軽度発達障害の調査では6.3%と推計されていました。
2006年に厚生労働省が研究成果として示した報告書によると、軽度発達障害の5歳児健診での出現頻度は鳥取県では1015名の調査で9.3%、栃木県では1056名の調査で8.2%という結果でした。軽度発達障害は、学習障害(LD)、注意/欠陥多動性障害(以下ADHD)、ASDです。
弘前大学大学院医学研究科神経精神医学講座の調査では2014年の3歳から17歳のASDの有病率は2.24%(45人に1人)です。

脳の過成長

自閉症は早期に生じる脳の過成長が関係していると考えられています。
2011年、アメリカ・ユタ大学の研究によると不慮の事故などでなくなった2歳から16歳の自閉症児7名の脳を調べたところ、同年齢の健常児の脳よりニューロン(神経細胞)が多く、脳がより重いことが分かりました。
自閉症児の脳は前頭前皮質にあるニューロンの数が67%多く、脳の重さも平均より18%近く重いものでした。
また、ノースカロライナ大学チャペルヒル校での研究で、自閉症スペクトラム障害が疑われる生後24か月の幼児の81%に、出生後6~12か月の時点で、脳の皮質成長率の増大が認められています。
この結果、生後1年目という早い段階の脳画像検査によって、脳の過成長に注目することで発症予測が可能になると考えられています。

シナプスの刈り込み

新生児の脳は生後8カ月まで大量のシナプスを形成します。これは、様々な環境に適応する可能性を作るためのものです。
しかし幼児期や青年期では脳の様々な部位が大量の信号に圧倒されずに発達できるように、これらのシナプス接続の不要な部分は間引かれ、これをシナプスの刈り込みといいます。シナプスの刈り込みによって脳の機能が最適化されます。

ミクログリアの働き

脳内において神経細胞が占めるのは約20%にすぎず、他に3種類のグリア細胞が存在し残りの約80%を占めています。
その1つであるミクログリアは唯一の免疫細胞で非常に活発に動いています。
ミクログリアの動きにより、発達期および成熟期においてニューロン(神経細胞)とシナプスの数を制御し、神経回路の形成やその活動を制御しています。
シナプスが形成され刈り込みが行われる時期は、グリア細胞同士が巨大なネットワークが形成される時期と重なっています。
またシナプスの刈り込みは「臨界期」と深く関連しています。
つまりミクログリアは、神経回路が形成される過程において、脳の働きに必要なシナプスをマクロファージのように貪食して取り除くことにより機能的に必要な神経回路の精緻化に関わっています。
自閉症の患者には、脳細胞が送受信する際の接合部にあたる「シナプス」が過剰に存在することが分かっています。
それは、自閉症患者の脳のシナプスが過剰に存在するのは過剰形成によるのではなく、劣化した古い細胞を廃棄(刈り込み)する通常のプロセスが正常に機能しなくなった結果と考えられています。
そのため変化に柔軟に適応していることの苦手さと関係していると考えられます。
自閉症の患者において、機能の低下が示唆される領域にはミクログリアの活性化やシナプスの密度上昇が生じており、ミクログリアの活性化と自閉症の関連が示唆されています。