アクセプタンス&コミットメントセラピー(ACT)1 アクセプタンス&コミットメントセラピーとは

アクセプタンス&コミットメントセラピーとは
(Acceptance and Commitment Therapy:ACT)

アクセプタンス&コミットメントセラピー(以後ACTと略)は、1999年にアメリカ・ネバダ大学リノ校心理学科臨床心理学の教授スティーブン・C・ヘイズ(Steven・C・Hayes)博士らによって出版された「Acceptance and Commitment Therapy:An experiential approach to behavior change」発表されたのが最初です。

その後、急速に世界に広まった第三世代の行動療法といわれる心理療法です。行動療法の流れを受け継いでおり、第3世代の行動療法と言われています。日本でも2009年にヘイズ氏を日本心理学総会に招聘しACTの特別講演を行い、次第に知られるようになりました。また、立命館大学の武藤祟教授や早稲田大学の熊野宏昭教授を中心に研究活動や翻訳活動が精力的に展開されています。

ACTの定義

ACTは「アクト」と読みます。ヘイズ氏らによるACTの定義は「心理的柔軟性を生み出すために、受容またはマインドフルネス過程(今現在において起こっている経験に注意を向ける心理的な過程)と同時にコミットメント(目標を共有して、それを果たすために全力をつくすこと)と行動変容過程を適用した。関係フレーム理論を含む現代の行動心理学を基礎とする心理療法である。」としています。

ACTの効果

うつ病、不安障害、強迫性障害、統合失調症、などの様々な精神障害をはじめ、職場のストレスや慢性疼痛など、幅広い心理的問題に対する効果が示されていることからもACTは支持されています。

また、幸福感(well・being)を向上させる効果が報告されています。これは、2つの要素が影響していると考えられ、1つがACTによりもたらされる感情制御方略(emotion regulation)の変化です。もう1つは、心理的柔軟性に含まれる「価値」および「コミットされた行為」という概念です。この2つの概念の促進が、幸福感の向上に有効ではないかと考えられています。

ACTの目的

ACTの目的は、困難な気分を取り除くことではなく、むしろ私たちが自らの人生と共に今この瞬間に留まり、価値づけられた行動へと向けて前に進む事です。
ACTでは、不快な気分に対して、オープンであること、過剰反応せずにいること、そして、そういったものをひき出されるような状況も避けずにいることを学べるように促します。

心理的柔軟性(Psychological Flexibility)

思考、感情、感覚、記憶、それらが伝えてくる内容ではありません。
それらをそれそのものとして、自己防衛することなく受け入れ、環境から体験するものを基礎として、連続した価値の選択をもとに、行動を持続したり、変化させたりする能力のことを「心理的柔軟性」といいます。

心理的柔軟性の構成

心理的柔軟性は、以下の6つのコア・プロセスによって構成されています。

① アクセプタンス(acceptance)

アクセプタンスとは「防衛することなく」自分に生じていることを十分に体験する(そのままにしておく)行動を意味しています。ネガティブな感情をコントロールしようとすることや、体験を回避しようとすることを軽減します。
例えば、望ましくない私的体験(思考、感覚、衝動)でも追い払おうとせず、やってきて去っていくままにします。ウィリングネス(willingness)とも呼ばれます。

② 脱フュージョン(defusion)

思考による囚われを減少するプロセスで、現在進行中の認知的なプロセスと認知の内容を切り離すことです。
思考やイメージ、記憶を「本物である」と思いこんでしまう傾向を低減する方略を学びます。
思考から見るのではなく、思考を見ることを学び、「あなたがつくり出した世界」と「刻々と変化するプロセスとしての思考」との区別を助けていきます。

③ 「今、この瞬間」との接触
(getting in contact with the present moment)

「今、ここ」に注意を向けます。
刻一刻と変化する体験の流れに対してより十分に接触を持ちながら、今を生きます。

④ 文脈としての自己(self as context)

超越的な自己の感覚と繋がります。
私的事象に対するアクセプタンスを促進するような状態を生みだすために、「文脈としての自己」と「概念化された自己」との区別を体験します。

⑤ 価値(values)

自分にとって一番大切なことを明らかにします。問題消去から「いかに生きるか」へ方向転換します。
心理的障壁(体験の回避、バリア)の偏在の中、生きるうえで価値(方向性)を明確にします。

⑥ コミットされた行為(committed action)

価値づけられた人生の目的や目標をセッティングし、それに合致した行動のパターンを確実に実行し可能な限り拡大していきます。

この心理柔軟性モデルは、行動原理と関係フレーム理論として知られている言語と認知に関する行動理論を基礎としています。