好子と嫌子 生得性と習得性

好子

行動分析学の概念の一つに「好子」と呼ばれるものがあります。「好子」というのは行動の直後に提示された時その行動を増大させるように機能する刺激のことです。

嫌子

嫌子は行動の直後に出現してその行動を弱化させる刺激です。嫌悪刺激、弱化子ともいいます。

好子や嫌子という呼称は、元々「正の強化子(positive reinforcer)」「負の強化子(negative reinforcer)」と呼ばれていました。
また弱化は「負の罰(negative punishment)」と呼ばれていたため、好子消失による弱化は、「正の強化子を除去して負の罰」と言われるために、学習上「負」や「罰」が混同され、煩雑な用語が学習の妨害になると考えて分かりやすくするため「好子」、「嫌子」、「弱化」という呼称を杉山尚子先生たちが提唱するようになりました。

杉山尚子先生は行動分析学が専門で慶応義塾大学大学院心理学専攻博士課程を修了し、慶応義塾大学や日本大学などで非常勤講師を務め、山脇短期大学准教授後、星槎大学大学院教授をされている研究者です。元日本行動分析学会常任理事、元日本動物看護学会副理事長で日本行動科学学会運営委員です。

生得性好子と習得性好子

生得性好子(unlearned reinforcer)

他の好子が存在しなくても好子である刺激・出来事・条件のことで、経験を必要とせず生まれながら好子として働く刺激・出来事・条件のことです。例えば食べ物や飲み物は行動を増大させます。好子にはこのように生まれた時から行動を増大させるような機能を持ったものがあり、これを「生得性好子」と呼びます。「生得性好子」は食べ物や飲み物の他に身体接触のような「感覚性好子」も含まれます。

習得性好子(learned reinforcer)

別の好子が存在することを前提条件として、好子として機能を持った刺激・出来事・条件で、生まれてからの経験によって後天的に行動を増大させる機能を持つようになったものを「習得性好子」と呼びます。「習得性好子」には褒め言葉や頭をなでるなどの「社会性好子」や、キャプテンになるとか代表になるとかの「名誉好子」、シールやおもちゃなどの「物質好子」があります。

習得性好子でありながら、生得性好子のように錯覚しがちなものとして、「注目」、「承認」、「愛情」、「従順」があります。

般性習得性好子(generalized learned reinforcer)

遮断化されていた多種の裏付け好子が存在することが前提条件として、好子としての機能を獲得した習得性好子。

習得性好子の条件に加えて重要な特徴として以下の3つがあります。

・他の好子と交換ができる(交換価値がある)。
・交換期限が過ぎると、ただちに好子としての機能を失ってしまう。
・有形であって数えることができる。

お金は私たちにとって強力な好子です。お金のように色々な好子と交換できるような好子を「般性習得性好子」といいます。お金は経済の変化や革命などの政治的な変化があれば紙切れにすぎない存在になる可能性があります。

私たちの生活の中には、買い物をしたらもらえるような色々なポイントやシールがあります。これも般性習得性好子の一つで「トークン」と呼ばれます。

トークンを好子として機能させている元の好子を「裏付好子(back up reinforcer)」といいます。

例えば、当たり付のアイスの場合、当たりと書かれた棒がトークンで、裏付好子はその棒と引き換えに得られるアイスです。トークンは裏付好子が1つだけであるのに対して般性習得性好子には裏付好子がいくつもある事に違いがあります。

生得性嫌子と習得性嫌子

生得性嫌子

他の嫌子と対呈示しなくても嫌子である刺激・出来事・条件のことです。生まれながらに嫌子として働く刺激・出来事・条件を生得性嫌子といいます。

例 歯科治療での痛み
例 お化け屋敷での恐怖体験

習得性嫌子

他の嫌子と対呈示されることで嫌子としての機能を持った刺激・出来事・条件のことです。

例 歯科治療で痛みを伴う治療器具が発する作動音
例 お化け屋敷の看板

問題行動に対して罰を繰り返すと、その罰は習得性嫌子となり、罰そのものが先行刺激と同じ機能を持つことを「刺激の二重機能性」(dual-functioning chained stimuli)といいます。