基軸行動訓練(Pivotal Response Treatment:PRT)について

基軸行動訓練(Pivotal Response Treatment:PRT)

基軸行動訓練(以下PRT)は自閉症に対する行動療法です。この療法は遊びに基づいていて、子どもによってはじめられます。
カリフォルニア大学サンディエゴ校のローラ・シュライブマン(Laura Schreibman)博士とカリフォルニア大学サンタバーバラ校ケーゲル自閉症センター(UCSB Koegel Autism Center)を設立した夫のロバート・L・ケーゲル(Robert L Koegel)と妻のリン・カーン・ケーゲル(Lynn Kern Koegel)達によって開発しました。

基軸行動訓練(PRT)は、ロヴァースの流れをくむ早期集中介入スタイルのABAの一種で、療育の対象となる重要な発達課題の一群を「基軸行動」として整理し、そこに重点を置いて行動を形成していきます。
そうすることで、それ以外の行動にも波及効果が期待できます。
PRTは、日常生活で興味を持ったものを用いて基軸となる行動に焦点を置いて指導する方法です。
基軸となる行動というのは、木でいえば枝葉となるものではなく幹になるような必要不可欠な重要な行動という事です。
「自発的に交流を求める行動」や、「自分で自分の行動を制御すること」、「色々な情報に(同時に)反応できること」などが「基軸となる行動」として選ばれています。
小さな行動を一つずつ全て教えるのではなく、少ない数のもっと大きな(塊の)重要な行動を教えることで、他へも良い影響があるというような方法がとられます。
基軸となる行動を教えるというのは、全ての行動を教えずに鍵となる行動を教えることで、他の行動を同時に学ぶことができるという考え方で子どもの動機を大切にします。
例えば、バナナをちょうだいといったらバナナを上げます。子どもの「バナナ」という発話に対して「良く言えたね」と返して上げることは自然ではなく、「バナナどうぞ」と言ってバナナを渡してあげる方が自然だという考え方に基づいています。

PRTの目的は次の通りです。

・コミュニケーションの語学力の発達
・積極的な社会的行動の増加
・破壊的な自己刺激行動からの解放

PRTセラピストは、ある特定の行動に取り組むのではなく、子どもの発達の極めて重要な分野をターゲットにしています。
中心的な分野に焦点を当てることで、PRTは社会的スキル、コミュニケーション、行動及び学習の他の分野にわたって改善を生み出します。

重要な分野は次の通りです。

・動機(モチベーション)
・複数の合図に対する反応
・社会的交流の始まり

モチベーション戦略はPRTアプローチの重要な部分です。
これらは自然の強化を強調しています。

PRTの基本原則

1 自然環境下でのトレーニング
DTTの勉強場面ではなく、自然な環境でトレーニングを行います。

2 主導権の共有
大人と子どもが遊びの主導権を交互に得ることで、子どものモチベーションを高めます。

3 たくさんのアイテム
様々なおもちゃなどを配置した自然な遊び場面を設定し、遊びを通して社会的に望ましい
行動を学びたいという意欲を持ってもらおうというものです。

4 簡単な課題と難しい課題を混ぜる
簡単な課題を解きおり挟むことで子どものモチベーションを高めます。

5 やる姿勢を褒める
子どもが課題ができなくてもやろうと取り組むことを褒めて強めていきます。

6 自然な好子を使用
遊びの中でお菓子などの不自然なご褒美を使うのではなく、遊ぶ事自体を好子として使用
していきます。

PRTの長所

・自然な環境で行うので、訓練な面以外で教えたい行動が出やすい。
・子どものモチベーションを高く課題ができる。
・コミュニケーションスキルが伸ばしやすい。

PRTの短所

・勉強は教えづらい。
・良くも悪くも子どものモチベーションに左右される。
・教えられる人が少ない。
・明確なプログラムが作られていない。

ロボットを使ったPRT

2018年、自閉症の子どもに教育用ロボットをPRTに併用した結果、ロボットを使用しなかった場合に比べてソーシャルスキルの大幅な向上が認められたとオランダの研究グループが国際自閉症研究学会で発表しました。
ロボットはNaoという名前のフランスAldebaran Robotics社が製造する身長60cmの人型ロボットです。
研究では、自閉症児を対象にセラピストが週1回、計20回のセッションで、ロボットを用いて者や行動を要求する、助ける、質問するなどのスキルの向上を目的とした7段階9種類のゲームを行いました。
セッション終了から3ヶ月後、ソーシャルスキルに関する質問票を用いて、親に子どもの自閉症の症状を判定してもらった結果、PRT単独または標準的な指導を受けた子どもに比べて、ロボット教育を受けた子どもの方が自閉症症状が軽減したことが分かりました。

研究を率いたラドバウド大学医療センター(オランダ)のIris Smeekens氏によると、一般に子どもはロボットと遊ぶのが大好きですが、自閉症児は特にロボットに良く反応することが、先行研究により分かっているといいます。
「自閉症児は興味があることを繰り返し聞きたがる傾向があり、親や教師では対応しきれないことがあるが、ロボットはこうした子どもにも対応できる。
また、ロボットは人間に比べて反応が単純で行動が予測できるため、多くの子どもの興味を引くようだ」と同氏は説明します。
専門家の一人でアメリカ自閉症科学財団(ASF)のAlycia Halladay氏は「行動療法とロボットを併用した今回の研究は有望なものです」と述べています。
Smeekens氏も「今回の結果は有望」としつつも、次のステップは、実際にロボットが臨床に導入される前に、さらに多くの施設で長期にわたるロボット教育の有用性を追跡するとともに、一人ひとりの子どもに適した治療を提供できるよう、ゲームの内容や難易度のレベルを調節できるようにしていくことと述べています。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする