クラーク・L・ハル(Clark Leonard Hull,1884~1953)

クラーク・L・ハルについて

アメリカの心理学者で、学習心理学を専門として、新行動主義心理学と呼ばれる立場にありました。ハルは、学習の理論を数学的に厳密化すること、また精神分析の諸概念を学習理論に統合することを目指しました。

先に仮説を立て、実験による検証をする仮説演繹法を導入して、行動や学習の過程を数式で表す体制化を行いました。睡眠研究にも業績を残しました。ウィスコンシン大学在職中の教え子には催眠療法で知られるミルトン・エリクソンがいます。長くイェール大学教授を務め、ジョン・ダラード、ニール・E・ミラーらイェール学派の学習理論化を育てました。生体の環境への適応という見地から要求低減を原理とする反応説と連合説を主張し、トールマンの認知説と対立しました。主著に「Principles of behavior」(行動の基本)があります

仮説演繹法とは
心理学は行動の学問と位置付けて、その方法は先験的原理から出発し、演繹的に仮説を立てて、これを実験によって検証し正しい結果を積み上げていくという方法を「仮説演繹法」と言います。

1884年 ニューヨーク州エリー郡アクロン村に生まれました。
少年の頃に腸チフスにかかり、その後遺症で視力と記憶力が低下し、それは生涯続き
ました。
24歳でポリオに感染し、片足が思うように動かなくなりました。

1913年 ミシガン大学で心理学を修めました。

1918年 ウィスコンシン大学マディソン校で学位を取得し、学内でしばらく教鞭を取りまし
た。

1920年 漢字のような図形を用いて、概念構成の実験を行いました。

1923年 睡眠療法で知られるミルトン・エリクソンがウィスコンシン大学の大学2年生の時に
ハルの元で睡眠研究を始めました。

1929年 エール大学教授として、新行動主義の指導的役割となりました。

1933年 始めて催眠現象に関する実験の本「催眠と暗示;実験的アプローチ」(HYPNOSIS
AND SUGGESTIBILITY;AN EXPERIMENTAL APPROACH)を出版しました。

同年、「心のメカニズムと適応行動」 (Mind,Machanism,and Adaptive
Behavior.)を出版しました。

1943年 「催眠と暗示性」(Hypnosis and Suggestibility)を出版しました。これは催眠を初
めて心理学の側面から扱った本です。
「行動の基本」(Principles of behavior)を著し、習慣強度(habit strength)、動因
低減説(drive reduction theory)について提案しました。

習慣強度とは
習慣強度は学習強度を反映するとされる仮説構成体(実際に計測できないという
もの)で、強化数や刺激と反応の感覚、反応と強化の感覚によって変化します。簡
単にいえば、ある行動に対して報酬を与えるということを繰り返すことで、その行
動の習慣強度が強くなるという事です。

動因低減説とは
「反応が起こりやすくなるのは、反応することによって動因を引き下げることが出
来るからである」という説です。反応が動因を満足させ、高まっている動因を低減
させることによって、刺激と反応の連合がさらに強化されると考えます。
これを数式化するとsER=D×sHR となります。
反応ポテンシャル=動因(心的エネルギーの大きさ)×習慣強度(経験の教度)

s:刺激(stimulus),R:反応(Response),
E:有効反応ポテンシャル(Effective reaction potential)
D:動因(Drive),H:習慣(Habit)

このように数式や関数で表現されたモデルを公準と言い、ハルの作成した16の公準
を「ハルの公準」と言います。

反応ポテンシャルとは、刺激反応にもとづく行動の強さや速さのことで観察や数量
かが可能なものです。動因は行動を何らかの方向に向ける心的エネルギーを指して
います。

つまり、行動は習慣の強さと、それを方向づける心的エネルギー(内的動機づけの強
さ)によって決まるという事になるます。例えば、朝食を食べる人にとっては、毎朝
朝食を食べる習慣の強さが強く、空腹により食欲という動因が強ければ朝食を食べ
る可能性は高まるという事です。

1951年 行動の本質(Essentials of behavior)を著しました。

1952年 コネチカット州ニューヘブンで67歳で亡くなりました。

1959年 行動の本質(Essentials of Behavior)が広島大学の教育臨床心理学者である河合伊六
先生によって翻訳。

1960年 行動の原理(Principles of Behavior)が青山学院大学の能見義博先生・岡本栄一先生
により翻訳。

1971年 行動の体系(A Behivior System)青山学院大学の学習心理学者である能見義博先生・
日本女子大学の数理心理学者である岡本栄一先生により翻訳。

1980年 行動の基本を河合伊六先生により翻訳。

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